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休みが明けたら・・・(6)2012.05.16 Wednesday
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3話の予定がすでに倍・・・。
無計画でホントすみません(恥
・・・まだ続きます(-_-;)
6
全身が冷えていくのを感じながら、座っていた椅子からのろのろと立ち上がり、俺は何を言ったらいいのか、どういう態度を取ったらいいのかわからず、結局口にしたのは「ごめんなさい・・」だった。
何も言わずに仕事場に来ちゃってごめんなさい。
許可も取らずに関係者ヅラしてごめんなさい。
迷惑・・かけちゃってごめんなさい・・・。
とにかく、それ以外の言葉は浮かばなくて俺は唇を震わせて、譫言みたいにごめんなさいを繰り返した。
押さえていたドアがやっぱり凄い音を立てて閉まり、無表情の黒川がずんずん俺の方に近付いてくる。
どうしよう。怒られる。――――黒川に、とんでもなく俺、迷惑かけちゃったんだ・・・。嫌われた・・・?
頭の中がパニックで、悪い方に悪い方に思考が持って行かれてグルグルしてた。
俯いて下げていた視線の先に少し土埃を被った黒川のスパイクが見えて、目の前でそれがぴたりと止まる。――――――何を言われるのか怖くて、反射的に目を閉じてしまった。
「――――――お前・・・、やっと来てくれたな」
「・・・え・・・?」
責めるでも怒るでもなく、俺にかけてくれた黒川の言葉はとても優しかった。
大きな掌が、大好きな黒川の掌が、ぐしゃぐしゃ掻き回すみたいに俺の髪を撫でる。
窺うように黒川に視線を向けると、ニッと右側の口角だけ上げて面白そうに俺を見つめてた。
「―――――お・・怒ってるんじゃ・・・ないの?」
「は?何で?」
「え・・、だってさっき入って来た時、怖い顔してたし・・・、俺、何も言わないでここに来ちゃったから・・・」
「・・・あぁ、そりゃアイツのせいだ。―――ホラ」
ほら、と言って黒川が顎をしゃくるようにして指した方向に立っていたのは、にまぁとした悪巧みでもしていそうな笑みを浮かべた柳井。
それでも黒川が不機嫌になる理由とは結びつかず、俺は軽く首を傾げる。
「アイツがここに連れて来たんだろ?試合前ならひと言言えってんだよな。なのにあの野郎ときたら・・・試合終わってベンチ裏に下りた瞬間、”ケータを拉致してやった。返してほしかったら一晩貸せ”とか言いやがるもんだからハラたって・・・。―――――――お前、アイツに何もされてねぇか?」
――――あー、あの人なら言いそう・・・。黒川のずっと先を行くド変態だからなぁ・・・。
「・・・おいっ、何かされたのかって」
「―――あ、あぁ。別に何も。ただ拉致られてここに連れて来られて、んで置き去りにされた。―――以上」
「・・・ったく、俺の慶太を拉致るなんて100億万年早ぇんだよ・・・」
チッと舌打ちでもしそうな勢いで黒川は言い、俺は(心の中でだけ)”柳井にはあのカメラの人の100倍になってるし”と笑った。
「―――――あ・・そういえば諒一・・さっき”やっと来てくれた”・・って。あれ、どういう意味?」
俺をもう一度椅子に座らせて自分はその横に立ち、左肩に手をかけた状態で目を細めグラウンドを見ている黒川を見上げ俺は聞く。
「んー?――――あぁ。ほら、現役時代は無理だとしても、お前、一回も俺の本業見に来たことなかっただろ?そんなにこの仕事に興味ないのかって、ちょっと残念に思ってたっていうか・・・寂しいかなぁ・・・みてぇな?」
「ごめんっ。実はそれ、今日気付いたんだよ、俺。テレビとかでは見てたんだ。シーズン最後の方だったけど、毎回テレビに噛り付いて見てた。――――でもさ、コーチになってからは・・・ファームだしテレビ中継とかないじゃん?それに、諒一がプレーしてるわけでもないし・・・なんとなく離れちゃってたっていうか・・・。―――あ、けどさ、今日はずっと諒一の方ばっかり見てたんだ、俺。そしたらあんまりベンチから出てこないし、出て来ても一瞬だけだし・・・んでつまんなくて――――」
「―――寝ちまったのか?」
「う・・・。ゴメン」
はぁ・・と溜息を吐かれて、呆れられたんだと俺は居た堪れない気分になって俯く。けど黒川は、左肩に触れていた手を一旦離し、体ごと全部引き寄せるように肩に回した腕で俺を抱き、その耳元に囁いた。
―――――要するに。俺だけ見てればそれで満足できるって事だよな?
悔しいけどその通りだから、顔の火照りに気付きつつ小さく頷く。
ふん、と満足そうに黒川は笑う。「いい子だなぁ、慶太」――――そう言って上気した頬にチュッとキスされた。
「―――――おぉ、おぉ・・お盛んですなぁ、黒川コーチ?」
頬を辿って降りてきた黒川の唇があと数センチで俺のそれを塞ぐ直前の、絶妙なタイミングで笑いを含んだ楽しげな声がかけられた。
「――――っんだよ!盛ってんのわかってるならジャマすんな」
声の方を振り返ることなく、不機嫌さを全面に出して黒川が答える。
「えー、だってお前、外から丸見えだったぞ?ケータのうっとり顔。羨ましいねぇ、いっつもそんなカオさせてオイシクいただいてるんだろ?いや俺さっきのケータの顔でしばらくヌケ―――――」
「―――柳井・・てめぇ本気で〆るぞ」
今度こそはっきり舌打ちをして、黒川は柳井から俺を隠すように目の前に立ちはだかった。
黒川の言葉に全く動じることなく柳井は軽く笑い声をあげ、「まぁそれは冗談として―――」と声色を改める。
「――――えー、黒川ヘッドコーチ。試合後の定例ミーティングがありますので、ロッカールームに大至急来て下さい。――――――――早く帰りてぇんだろ?ちゃっちゃと終わらせてお開きにしようぜ」
柳井に散々からかわれながら黒川が部屋を出て行き、俺は無意識に詰めていた息を大きく吐き出す。
怒ってたんじゃなくてよかったぁ。つーか、もっと早く来てあげればよかったんだよな、俺が。とことん気が利かねぇなよなホント。ダメダメだ、俺・・・。――――――などと、盛大にしっかり反省して、あいつがプレーしてなくても、これからはもつと頻繁に観に来てみよう、と俺は心の中で誓ったのだった。
それから約1時間後。今朝別れた時と同じ服を着た黒川が再び俺のいる部屋の扉を開けた。
「―――おう、待たせたな、慶太。少し早ぇけど、晩メシ食って帰ろうぜ」
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パパの執念 232012.05.15 Tuesday
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23
「――――要するにさ。京ちゃんの頼りなさが悪いんじゃん」
怜を含めた職人たちが現場に行った後の事務所。事務方の打ち合わせを終えた瞬間、尚が確実に棘のある口調でそう京助に言った。
一瞬何を言われているのか理解できなかった京助が、顰めた顔で尚を見て、それからぐるりと首を回し翔太に向かい尋ねる。「―――――俺は今詰られているのか?」
「・・・たぶんな」。我関せず、といった涼しい表情で翔太は言い、図面を引いたり取引先へ電話を掛けたりと通常業務に取り掛かる。
「――――――さっきはちょっと感情が先走っちゃったけど・・・僕はね、突き詰めて考えると怜君は悪くないと思うんだよね。だってさ、彼の全部をひっくるめてモノにしたなら、彼を苦しめるだろう様々な障害はきっちりカタを付けておくべきだったんだよ。それをただ好きだ愛してる可愛い怜〜・・・で浮かれて過ごしてきちゃった京ちゃんに責任があるんじゃないの?――――ていうか、それくらい先を読めないと守ってあげられないじゃん。・・・それでなくてもなかなか認めてもらえない関係なんだからさ、京ちゃん達って。―――まぁ僕らも含めてだけどね」
あぁ、そうか。なるほどな。そういう見方もあるよな。―――――と、京助は単純に感心する。
今朝、事務所に入った怜を尚以外の全員が笑顔で迎えた。
―――無事でよかった。
―――もう心配かけるなよ。
―――休んだ分きっちり働け。
しかし、尚だけは笑う事もなければ、逆に怒っている雰囲気も全く示さなかった。
ただ無表情に怜を約30秒、じぃ・・っと見据え、大きな溜息を吐き、「―――バカだよね」と吐き捨てるように言った。
事務員や職人たちは「えっ?」という戸惑った表情を浮かべ、翔太は「おいおい・・」と苦笑い、京助に関しては心の中で、いつ助け舟を出そうか・・・と展開を見守る姿勢を見せていた。
怜は尚のその言葉に小さく頷き、気を悪くするでもなく、それどころか嬉しそうに笑って答える。
「―――――うん。バカだった、俺。・・・尚くん、ちょっと気合い入れ直してく―――――――――ッ?!・・・っでぇ・・・」
言い終わるよりも早く、尚の振り上げた手が怜の額に振り下ろされて、その衝撃に怜の口から反射的に呻きが漏れた。
数秒の沈黙があり、次に・・・、その場にいた全員が盛大に笑いだす。
事務所内にややしばらく笑い声が満ちて、無言のまま尚が一番大きな声で笑い続ける京助の肘の辺りを、怜に振り上げたのとは逆の手でべしべし叩き、不満そうに睨み上げていた。
「ちょ・・・ちょっと・・・何だよお前その気合いの入れ方・・ッ!―――――あー・・も、カンベンしてぇ。すげぇ笑えんだけど〜」
「笑うなッ!――――だって僕、ひとの殴り方なんて知らないもん。それにそれにっ、僕のやり方が絶対一番痛いに決まってる!」
「―――あー・・・ウケる。なぁ翔太、見たかよ今の。こうだぜ?こう!ハラ痛ぇ・・・。――――いやぁ、怜。すげぇ気合い入ったろ?」
涙目で笑い転げる(勢いの)京助が、脇腹を押さえながら翔太と怜に聞く。翔太は「お前笑い過ぎ・・」と、尚の真似をして手を上げ下げする京助の腕を押さえつけ、少し気の毒そうに顔を真っ赤にしている尚を見る。怜は曖昧な表情のまま苦笑して緩く首を横に振り、「――――痛くない。・・・たぶんだけど・・・尚くんの手の方が・・・痛いと思う」と言った。
「―――い、痛くないっ!」ムキになってそう言った尚の手は、小指から手首の脇の部分が真っ赤になっていて、痛みがあるのだろう、熱を持った部分を冷やそうとするかのように逆の手でパタパタ風を送ったり、フーフーと息を吹きかけたりしている。
「――――はぁ・・・ハラ捩れっかと思った。だって尚・・お前・・・チョップとか、ありえねぇだろ。予想外過ぎて笑い死にしそうだ」
「うううう、うっさい、京ちゃん!」
―――――という、従弟同士のちょっとしたじゃれ合い(笑)があり、「尚くんありがとう。俺、マジで気合入ったから!」と怜が嬉しそうに現場へ出かけて行き、そして冒頭の尚の言葉に戻るのだ。
「――――そーだな・・・。確かに尚の言う通りだ。俺がもっとしっかりしてなきゃいけなかったんだよ、絶対に。だから大いに反省してるよ。そりゃもう夜も眠れないくらいにな」
至極真面目な表情で京助はそう言ったけれど、尚は「反省?――――嘘だ。してないね絶対」と言い切った。
「――――眠れないなら一人で勝手に悶々してればいいのに、京ちゃん・・怜君も道連れにしたでしょ?ってか、どっちかっていうと眠れないってのは後付けで、単に・・・可愛がりたかっただけなんじゃないの?」
「――――は?何が言いたいんだ?」
「・・・うなじと鎖骨の痕!――――あんな堂々とこれ見よがしに残ってたら誰だってそう思うよ!京ちゃんのド変態!!」
「えー・・・そういうこと言う?変態とか?キツイねぇ尚は。――――あれは・・・だから、愛情表現だろうが。俺がどれだけあいつを・・こう・・求めているか?」
「うっさい!言い訳するな!!――――――大体ね、今日から久々に仕事戻るってわかってるのになんでわざわざ寝不足になるようなことさせるかな・・・。それこそ愛が足りないんじゃないの?」
「ばっか・・・お前。俺の愛情は相当深いぞ。そりゃもう聞いたらドン引きするくらいにな!―――つーか、俺だってそれくらいわかってるから昨夜はいつもよりだいぶセーブして・・・」
「じゅーぶんドン引きしてますー。京ちゃんの鬼畜ぶりに〜!」
いつまでも続きそうな子供の(ような)言い合いを、いい加減にしろよと止めたのは翔太。
「――――お前ら!ここは家じゃねぇんだぞ!従弟同士の喧嘩ならウチ帰ってからやれよ!―――――つーか、京助。お前、何日仕事してねぇかわかってんのか?放ってる案件に早く手ぇつけろよ!尚も、10時から打ち合わせだろ。ちゃっちゃと準備しろ!」
「「――――はい。すみませんでした」」
ビクッと肩を竦めた京助と尚の後頭部を一発ずつ軽快な音を立て叩き、ふぅー・・と呆れきった大きな溜息を吐いた翔太は、何もなかったみたいな涼しい顔で再び自分の席で仕事を始め、京助は逃げるように事務所を出て社長室に籠り、尚も翔太を刺激しないようにそそくさと机に向かい仕事に取り掛かる。
かくして京助の、”怜が泣いちゃったら俺が助ける大作戦(仮)”――は、敢無く撃沈したのだった。
社長室のドアがノックされ、京助が短く答え入室を促す。
「――――京さん。まだ終われない・・・?――――みたいだね」
仕事を終えた怜が顔を出し、机の上に広がった資料や図面に目を丸くする。
「おぅ、怜か。お疲れさん。・・だな。まだかかりそうだな。悪ぃけど先に戻ってあいつらのメシ、頼めるか?」
「もちろん。―――――京さん」
「んー?」
「ごめんね」
怜の言葉に京助が視線を上げて、何事だ?みたいな表情で怜を見つめた。
「・・・何、言ってるんだよ怜。これは別にお前がどうとか、そういうんじゃ・・・」
「でも・・・俺があんなことしなきゃこんなに仕事溜まったりしなかったでしょ?だから・・」
「んなことねぇよ。これはどっちみち今日やっとかなきゃいけねぇやつだったんだし。―――――怜。ちょっとこっち来いよ」
申し訳なさそうに扉の前に立つ怜を、京助が穏やかに笑って手招いた。
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みなさまのご訪問のおかげで、いつの間にか20万hitを超えておりました!!
本当にありがとうございました!!o(≧∀≦)o
これからも精進してまいりますので、引き続きお付き合いくださいますようお願いいたします!!
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休みが明けたら・・・(5)2012.05.14 Monday
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5
「――――あれ・・・?黒川さんとこのケイタ君・・じゃない?」
知らない場所に放り込まれ、同じその空間にいる数名の球団関係者たちが明らかに訝しむ視線で俺を遠巻きに見ている中、その中の一人が俺の名前を呼びながら近づいて来た。
・・・見たことは、ある。――――気がする。
「・・・こ、こんにちは。―――あ、いつもお世話になってます・・・?」
黒川のマネジメントの仕事関係で、もしかしたら会ったことのある人かもしれない。一応付け足すようにそう言って相手の反応を待ってみた。
「あはは!そーだね、黒川さんの我儘にだいぶ振り回されてるから、・・・うん、お世話してあげてるかも」
・・・と、さも可笑しげにふき出して、それから試すように聞く。「僕の事、覚えてないかな?」
すみません。はっきり言って会った場所も、あなたの名前も、全くちっとも覚えてません。
―――――とは、当然言えないから、曖昧な笑みで誤魔化してみた。
するとその人は徐にペタリと床に座り込みカメラを構え、「―――こうやって・・・僕はケイタ君の写真を撮ったことがある」、と口元をニッと緩めて笑った。
「―――――。・・・あっ!いつだったかウチに来た、球団広報の・・・!」
「正解!―――――その節はオイシイ写真をありがとうございました」
「・・・う・・・」
「はは!大丈夫だよ。あの写真はもう既にこの世にはないから。――――あの日、黒川さんにあの場でデータ消されちゃったんだよね。お宝画像になるはずだったのにホント残念だったよ」
「・・・そ、うです・・か」
「そうです。”お前がケイタの写真を撮るなんて1億万年早い!用が済んだらとっとと帰れ!”ってモーレツに怒られて家を叩き出されましたよ、僕は」
「ぅわ・・・なにその理不尽な追い出し方。―――つーか、オレサマ的な態度って、俺にだけじゃなかったんだ。あいつホント最低」
「被害者は多いと思うよ・・・。あ、けどここだけのハナシにしておいてね。後でどんな制裁を加えられるか・・・」
せ、制裁?!なんだアイツ何様だ!―――俺がプンスカし始めたのを見てカメラの人はぶっと吹きだし、「冗談だよ、冗談。制裁なんてないから安心して」と笑いを堪えた震える声でそう言った。
「―――――さっき柳井さんに連れて来られてたけど・・・?」
そういえば・・・と、笑いを収めて本題に戻った彼は、俺がどうして柳井に連れて来られたのか不思議だったらしく、少し遠慮気味に聞いてきた。
「あー・・・。―――いや、実は俺、一度も野球観戦したことなくて、りょ・・・黒川には言わないで球場に来て、試合ってどういう物なのか、ちゃんと見てみようと思ったんですよね。そしたら何か呆気なく柳井さんに見つかって、やだって言ったのに無理やりここに連れて来られたっていうか・・・」
「なるほど。――――柳井さんに関してはリアルに想像がつくね。あの人の強引さは黒川さん以上だから。―――――――そうか・・・じゃあ・・このパスを首から下げていて?これがあれば、誰も不審に思わないから」
「え。でもいいんですか?俺関係者じゃないし・・・」
「関係者じゃないか。思いっきり。――――それに、ここにいた方が黒川さん、きっと安心すると思うしね」
「安心・・?どうしてですか?」
「えー?はっきり言ってもいいの?」
「・・・?」
すこし言い難そうに。けれど確実に面白がるような表情でその人は言った。
「―――――だって・・・。黒川さんってものすごく過保護でしょ?ケイタ君が知らない場所で一人フラフラしてるより、自分のテリトリーに入ってフラフラしてる方が、絶対安心・・・ていうか、満足するタイプじゃない?それにさ、今日は結構陽射しも強いし、日焼けなんかさせた日には・・・それこそ理不尽な扱い受けちゃいそうだし。だから君がここにいると知ってしまった以上、僕としてはここにいてもらわないと困る。――――それに試合が始まったら僕らはここから出るし、ゆっくりのんびり試合が見れるよ。ここはバックネット裏より―――」
「―――臨場感がある・・・?」
「・・・?そう。良く知ってるね!黒川さんから聞いた事あるの?」
「いえ。さっき柳井さんが同じこと言ってたから。――――――過保護ってのは果てしなく複雑で不満がありますけど・・・、お言葉に甘えて、ここで観戦させてもらいます。お気づかい、ありがとうございます」
「どういたしまして。――――――そのパーテーションの陰にコーヒーとお茶があるから、良かったら飲んで。じゃあ、そろそろ試合が始まるから行くね。―――ごゆっくり」
ありがとうございます。――――部屋を出て行く人たちに軽く頭を下げて、俺はもう一度お礼を言った。
最初こそナニモノだ?!みたいな顔で見ていた人たちも、カメラの人と話し始めた俺を気にして見ている様子はもうなくなっていた。
ふぅ、と息を吐き、乱雑に置かれたパイプ椅子を引っ張って来て腰掛けて、格子のついた窓からグラウンドに散って行く選手たちの姿をぼんやりと眺めた。
回が進むのと同じペースで、俺の興味と意識は徐々に終わりに近づいていく。
―――――はっきり言おう。俺はこの試合に、まったく、ちっとも、引き込まれなかった。
初めてのプロ野球観戦で、物珍しさも間違いなくあったし、楽しみ方や(黒川の選手時代最後の数試合は夢中になって観てたから、)ルールだってちゃんと知ってる。それなのに全然面白いと思えなかった。
理由は簡単。―――――――黒川が出ていないから。
時々ベンチから出て来る事はあったけど、9回のうち片手の指で余るくらい。その時だけは目が爛々としてしまう自分がちょっと恥ずかしいけど、それでもあいつのユニフォーム姿って生で見たことないから何か・・・、・・・、悔しいけどときめいた。(チッ)
要するに俺は試合じゃなく、黒川のいる1塁ベンチばかり見ていたって事。そりゃ眠くもなるさ。(←言い訳)
買ってきたコーラも飲み干して、飲んでもいいよと言われたコーヒーも超ブラックで何杯か飲み、それでもやっぱり眠さには勝てなかった。
ずどんと落ちていた意識が覚醒したのは、扉がもの凄い音で開かれたのと、「おい、マジかよ」って驚きと呆れと少しの喜びが混じったような複雑な聞きなれた声が耳に届いた時。
突っ伏していた(らしい)顔を少し上げ、見上げた先にあったのは、眉間に皺を寄せて声以上に複雑な表情をした黒川の姿だった。その瞬間。俺は一気に背筋が凍るのを感じた。
―――――俺、こんなとこに来るべきじゃなかったんじゃないか・・って。
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パパの執念 222012.05.13 Sunday
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予定より早いですが、更新です^_^
22
一瞬の間があった。「・・・は?」「・・・え?」「どの辺が・・・?」と3人が次々に驚いたように聞き返す。
「―――――俺は今回、初めて怜の前で・・・マジ泣きした」
笑うでもなく、恥ずかしがるでもなく、至って普通にさらりと京助は言う。
怜が、ありゃ、自分で言っちゃったと苦笑し、真人は、へぇ、すごく意外と目を見開く。そして耀は・・・。
「・・・え、マジ?―――――見たの?怜兄ちゃん」――――素っ頓狂な声を上げた。
「・・・うん・・・まぁ・・・見た」
「号泣?しゃくり上げてとか?」
途端、弱みを見つけた!みたいなキラキラした表情で耀は前のめりに尋ねる。
舌打ちをした京助がズイッと体を前に倒した耀の頭を小突いた。
「・・・アホか。んなお前みたいな泣き方するかよ」
「イデッ!・・・んだよっ、俺だってそんな泣き方しねぇし!」
食って掛かるようにそう言った耀をちらと怜と真人が見遣って、示し合せたように視線を合わせ小声でボソボソ囁き合う。
「・・・したよな?(ボソッ)」
「・・・うん、したした(ボソッ)」
そのやり取りに京助がプッと噴き出して、ニヤついた表情で耀をついと見た。
「ちょっと、怜兄ちゃんも真人さんも、聞こえてますけど!つーか、父さんニヤけ過ぎ!――――で?どうしてその秘密を言おうと思ったの?」
「―――ん?あぁ。ほら、さっき怜が言ったろ?”弱い部分を見せ合える関係は大事だ”って。だからさ、お前らには俺にもそういう面があるってことを知られててもいいかなぁ、なんて思ってよ」
少し照れくさそうに京助はそう言って、でもそれを隠すように手にした煙草に火を点けた。
耀はしばらく不思議なものでも見るように京助を見てから、それってさ・・・と口を開いた。
「それってさ、――――俺たちにならどんなかっこ悪いとこでも、だっせぇとこでも、全部さらけ出せるってこと?」
「・・・まぁ、そうなるな。―――――ん?ダメか?」
「ダメじゃないけど・・・。何かビミョー」
「何でだよ」
せっかく勇気を振り絞ってカミングアウトしたのにさ・・・、といじける風を装って京助は聞く。
けれどその理由に答えたのは耀ではなく真人だった。
「―――――京助さんが、耀くんの目標だから・・・でしょ?耀くん?」
「う・・・。―――――そんなこと今言わないでよ真人さん。恥ずかしいじゃんッ」
銜えていた煙草をポロッと落としかけるほど、驚いた様に口をぽかんと開けた京助が、次の瞬間、見ているほうも目を細めたくなるくらい、嬉しそうに目尻を下げて、もうどう喜びを表現していいかわからない、みたいな勢いで耀の髪をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「何だ耀。お前、俺に憧れてんのか?ん?そんなに俺が好きか?――――チクショー、お前、ホントに可愛いやつだな。パパりん、むぎゅーってムチューってしてやろうか?」
掴んだ手で本当に引き寄せられ頬擦りでもされそうな気配を敏感に感じ取った耀が、複雑そうに顔を顰めて髪に絡む京助の手を振り払った。僅かに頬が上気している。――――恥かしかったらしい。
「・・・そんな変態オヤジはいらねぇし。――――――あぁ、もうっ。そういうこと言わなければカンペキな男なのに、ホントもったいねぇよな、父さんって」
「―――またそんな憎まれ口言って・・・。京助さん、怜さん。耀くんね、最近よく言うんですよ。”父さんみたいに気負いのない強い男になりたい”って。それから・・、”父さんと怜兄ちゃんみたいな一緒にいるのが当たり前、みたいな恋人同士になりたい”・・・って。耀くんにとってふたりは、理想であって目標なんです。だからこそ、今回のことでとっても心を痛めてた」
最初少し呆れたように耀にそう言って、途中からは怜と京助に向かって穏やかな口調で真人が話しかけた。
そんな風に思ってくれてたんだ・・・。怜がしみじみと言い、ごめんと言いかけて途中でやめた。
「今度こそ、耀がみんなに自慢したくなるような、そんな関係でいられる努力、俺、ちゃんとするからさ・・・。―――――ありがとうな、耀」
すっげぇ恥ずかしいんですけど!――――と顔を真っ赤にして照れまくる耀に3人が目を細める。
皆それぞれに可愛くて仕方ないというような、愛情の篭った温かな眼差しで。
「――――まぁ、もう心配いらねぇだろ。俺の地の果てまでも追いかけて行ってやるという執念が、怜にはちゃんと伝わっただろうしな。逃げ出そうなんてアホな考えは二度と持たせねぇくらい、ガッチガチに縛り付けて愛してやる。――――――まぁせいぜいパパりんを目標に、キミたちも愛を育みなさいよ」
サラッと暑苦しく、そして親らしいとはとても言えないことを言い、「おい、メシ冷めてんじゃねぇか、これ?」と、コロッと話題を変える京助に、怜も耀も真人も心の中で、”すげぇいい加減だけど、・・・やっぱ頼りにしちゃうんだよな、このひとを・・・”――――と、悔しさ半分頼もしさ半分の複雑な心境で思ったのだった。
翌朝からいつも通りの日常がようやく瀬能家に戻ってきた。
もう一日くらい休んでいいんだぞ、という京助の言葉を振り切って作業着に着替えた怜が、「先に行ってる!」と、跳ねるように会社に向かって駆け出して行く。
その後姿を見ながら京助は呆れたように苦笑する。
昨夜、(また)あんなにくたくたになるまで抱いたのに、何であいつあんなに元気なんだ?もしかして、自分で思うより全然あいつを満足させられてないじゃねぇか?――――などと、怜が聞いたら青ざめてしまいそうなことを考えながら、京助も後を追う。
会社に行けば翔太と尚に散々締め上げられるんだろうな、怜のやつ。と、これから繰り広げられるであろう展開を予想して、少し意地の悪い笑みを浮かべ、
“かわいそうだけど少しの間放っておこう。んで、もう限界、それ以上言われたら泣いちゃう、みたいな雰囲気になったら俺様が颯爽と登場して助け舟を出してやろう、うんそれがいい・・・・・・。”
なんてムフフとほくそ笑みながらゆっくりと会社までの50メートルを歩いた。
――――もちろん、そんな展開は全く起きることはなかったのだけれど。
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休みが明けたら・・・ 4 (お知らせあり)2012.05.12 Saturday
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最後に明日の更新についてお知らせあります。
4
初めて訪れる知らない街。俺は恋人と一緒にゆっくり観光を楽しんだ――――りできるわけなどない。
引き摺られるように新幹線を降り、途中黒川のファン(圧倒的に女性が多い)にサインや写真を強請られて、何故か付き人のように(・・いや確かに付き人的な仕事はしてるけどあくまでも俺は休みなんだ!)当たり前にカメラを持たされ「ハイ、チーズ」なんてベタな掛け声までかけさせられ・・・。公人黒川諒一の根強い人気をしっかり再確認させられ、慌ただしく駅を出た。
そこからタクシーで5分ほどの場所にあるホテルの前で降ろされて、「――この鍵で部屋に入れるから、夕方まで時間潰しとけ」と、大した説明もなくそこに一人置き去りに・・・。―――――はぃいいいっ?
「酷過ぎないか。この扱い・・・」
知らない街で、どうやって一人で時間を潰せと?!――――――はぁぁ・・、大きな溜息を吐いてその場で立ち尽くし、渡されたカードキーを空に翳して、もう一度深呼吸と一緒に溜息を吐いてから、俺は諦めたようにホテルに向かって足を踏み出した。
「・・・何だ。思ったより普通の部屋じゃん」
渡された鍵に記された部屋は、至って普通のツインの部屋だった。
いつも黒川が使っているような、ナントカスイート的な雰囲気は一切なく、ビジネスホテルよりは隣室を気にせず過ごせるかな、程度の室内。――――――まぁ、1軍じゃないし、コーチだからって特別でもないんだろうな、なんて思いながら俺はとりあえず携帯を弄る。この辺りで時間を潰せそうな場所がないか検索するため。
「・・・動物園・・・って、子供じゃねぇんだし、男一人で行くのもなぁ・・・。―――植物園・・・は虫とかいそうでヤだな・・・。―――寺社仏閣めぐりとか?・・・いやいや、ないだろう。―――ダメだ。やっぱムリ。――――あ、買い物にしよ。夏モノとか欲しいし・・・ファッションビル的な・・・。―――――あ・・・これって」
ベッドの上に寝転がりながら、あーでもないこーでもないとぶつぶつ独り言を繰り返して、最終的にここじゃなくてもできる”買い物”、という選択をした俺の目に、勢いでスクロールした携帯の画面が、思いがけないところで止まった。
〇〇市営球場 イースタンリーグ ダイアモンズvsクルーガーズ 正午試合開始―――――
そういえば・・・俺、生で野球の試合って観たことなかったな。あいつのコーチ姿とか、ちょっと見てみたいかも。
「っしゃ。行き先決定。―――――こっそり諒一の仕事っぷりを見に行こーっと」
で。――――あれからすぐタクシーに乗って市内の中心部にある市営球場までやって来た。
当日券を買って、満員とはいかないけれど、そこそこの観戦客で埋まったダイアモンズ側の内野席に座った。
初めての野球観戦。テレビの画面で見るよりずっとリアル。球場のざわめきや選手たちの掛け声。ブルペンで投球練習しているピッチャーの投げたボールがキャッチャーミットに納まった瞬間の鋭い音とか・・・。とにかく、目に映るもの、耳で聞くもの、感じるもの全てが新鮮で物珍しくて、キョロキョロと、完全なおのぼりさん状態で辺りを見回していた。
グラウンドでは相手チームの選手がシートノックをしている。どうやら黒川のチームはもうそれを終えているらしい。・・・ちょっとホッとした。――――というのも。俺は1塁側の内野席最前列に座っていて、ベンチの丁度真上。だから余程のことがない限り黒川は俺がここにいるって気付くことはないと思うんだけど、でもやっぱり恥ずかしいから観に来たことはこんな早い段階では知られたくない。ガキっぽい意地なんだ。だけど、俺にはなかなか見せてくれない、真剣に野球に向かってるあいつをちゃんと見てみたい、それが一番の目的。
試合開始まで10分を切った辺りで、そう言えばビールとか売りに来ないのかな。なんてまた周りを見回してみたんだけど、そんな様子は全く見えない。なんだ、残念だなと一度席を立ち、何気なくすぐ下のベンチ前に視線を向けたら・・・バットを肩に担いだ状態のまま固まった、見知った顔が俺をガン見していた。
当然、俺の周りに座る観客たちは、1軍にいてもおかしくないその選手が観客席に視線を向けて動きを止めた事に、(理由はどうあれ)興奮している様子で、手を振ったり写真を撮ったり、サインをもらおうとタオルやら何やらを手を伸ばし渡そうとする。
「・・・ぅわ、何でファームにいるんだ、あのひと・・・」
逃げるようにその場を離れて通路までダッシュして、一番隅っこにある自販機までどうにか辿り着いた。
ビール飲みたかったけどないからコーラにしよう・・とボタンを押した瞬間。
右側の”関係者以外出入り禁止”の札がかかった扉が勢いよく開いて、―――――俺はがっくり肩を落とした。
「――――あー、やっぱりケータじゃん。なになに〜、黒川待ち?」
軽〜い口調でその人―――柳井拓真。黒川以上に変態っぽいけど、一応3年連続ホームラン王―――が、ニッコニコで顔を出した。
「・・・コンチハ、柳井さん。―――――つーか、何でここにいるんすか?」
「んー?こないだからちょっと足に違和感あってさ、こっちで調整中。・・・黒川はお前が来てる事知ってんの?―――――あー、その顔じゃ、あいつに知らせてねぇな・・・。うし、ちょっとお前こっち来い。特等席で見せてやるから」
「え・・・、い、いいっすよ。俺フツーに内野席買ったし。――――ちょ、柳井さん!勘弁して下さいって!」
俺の必死の抵抗を全く気にも留めず、柳井は俺を半ば抱えるようにして、出てきたドアから鼻歌混じりに中へと戻った。
「――――ここ。バックネット裏よりずっと臨場感あって見ごたえあるぞ」
んじゃ、ごゆっくり〜。――――俺の話を全てスルーして、満足そうな笑みを浮かべくしゃっと髪を撫でてから、柳井は俺ひとりその空間に残し出て行ってしまった。
黒ぴょんにいろんなアイテムをくれる柳井サンwww
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泊まりで子供の遠征付き添いのため、明日は通常更新ができません。
なので、パパ〜を13日AM7:00で予約更新してみようかと。
村の新着には載らないみたいなので、こちらでお知らせさせていただきました。
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パパの執念 212012.05.11 Friday
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21
「――――どんな理由があったとしても・・・、何も言わないでいなくなるのは卑怯だ!俺だってスゲー心配したし悲しかったけど、俺以上に・・・、もっと父さんはキツかったんだからな!俺たちに心配させないように、最初の2、3日はただの痴話喧嘩だって言ってたんだ。だけど仕事にも行かないで朝も夜もなく走り回って、メシも碌に食わないでまともに寝てもない・・・。そこまで父さんを苦しめてたのに・・・”戻るつもりはなかった”―――?ふざけんな・・ッ!」
じわじわと浮かび上がった涙を拭うことすらせず、(もしかすると泣いていることに気付いていないのかもと思うほど無頓着に)耀が怜に言葉を叩きつけるように怒鳴った。
京助が、「まぁまぁ、そんなに興奮するな」と宥め、真人にも、「それは怜さんが一番よくわかってるんだから・・」と窘められたけれど、それでも込み上げる(怒りなのか悔しさなのか、何れ複雑な)感情を抑えられないようだった。
耀は怜に向けた視線を外さない。怜も耀の鋭い視線から逃げなかった。
ふたりは暫く無言のまま奇妙な見つめ合い方をしていたのだが、唐突に耀の顔が顰められた。
怜の表情が、今この場面ではいちばん相応しくないもの――――嬉しそうな笑顔に変わったからだ。
「――――な・・・!何で笑ってんだよ。俺は、スゲー怒ってんだぞ!」
ムキになって食って掛かる耀の必死な態度に、尚も怜の笑みは消えなかった。
ただ嬉しそうに目を細め笑んで、けれど静かに音もなく涙を流していた。
そしていく粒か零れた涙の行方をじっと見つめていた怜の口から、吐息のような弱々しい言葉が発せられた。
「―――――わかってる・・・。もっと怒っていいよ、耀。あ・・えーと、ごめん。悪気があって笑ったわけじゃないんだ。やっぱり耀はいい子だな・・強い子だなって思って。――――――俺さ、今すごく嬉しいんだ。京さんに説教されて、綾子さん・・・お母さんにも叱られて叩かれて、んで、耀にも怒鳴ってもらった。もう長いことこんな風にめちゃくちゃに叱られるってことなかったから・・・親が、死んだ後、そういうの全部諦めてたから・・・、だから余計、嬉しいんだ。本当に俺、家族として受け入れられてたんだ、って。俺には戻る場所が、あったんだ、って―――――ごめん、ごめんな、バカなことして・・・。許してくれなくてもいいから、気が済むまで怒ってくれてていいから、・・・俺を、また家族にして、耀」
こみ上げる嗚咽を堪えながら苦しげに怜はそう言って、それでも浮かべた表情にはやはり喜びの感情がはっきりと映っていた。
耀は唇を噛み締め、色が変わるほど強くそうしてきつく瞼を閉じる。
堪えきれず厳しい言葉を投げつけてしまった後悔と、怜に対して小さな頃から持つ揺るぎない思い・・信頼と憧れ・・の狭間で、未だかつて経験したことがないくらい混乱し狼狽えていた。
「―――――――当たり前だ、そんなの。抜けさせてって言ったってそんなの認めないからな。怜兄ちゃんはいつだってずっと俺にとって家族だったんだ。これからもそれは変わらない。・・・俺はただ本当に、心配だったんだ・・・。怜兄ちゃんも、父さんのことも。けど俺、何もしてやれないからスゲー歯がゆくて、それでも父さんは心配すんな、ちゃんと見つけるからって・・強いなとは思ったけど、・・・でも怜兄ちゃんがいなくなって一番辛かったのは、心細かったのは父さんだった。――――――――いっつもくだらないことばっかり言って俺たちを呆れさせるような、そんな父さんがやっぱり俺の父さんだと思うし、その隣には・・・ちゃんと怜兄ちゃんに立っててほしい。俺にとって、それが当たり前の状態なんだ。だから、だからさ・・・」
怜は耀が最後まで言い切るよりも早く、その言葉に頷き、そして答えた。
「―――――もう、自分だけの考えで逃げ出したり、相談もしないでいなくなったり、そういう皆を苦しめるような事は絶対にしない。・・・ありがとう。耀」
怜の言葉を聞き、耀は安心したように小さく息を吐いた。そして漸くそこで薄い、苦笑に近い笑みを口元に浮かべた。視線の先には心配そうな真人がいる。情けないほどバツが悪そうなその表情は、興奮しきってヒートアップしてしまったこの状況に、急激な羞恥が湧いたからだろう。
そそくさと席を立ち、顔を真っ赤にしたまま真人の隣に大きな体を小さく縮こまらせて座った。
耀の座っていた場所に京助が座り、怜の髪をポンと撫で、「めちゃくちゃ愛されてんな、お前」とからかうように言った。そして今度は真人に視線を向け嗾けるように言う。「――妬けるよな」と。
真人は小さく笑って首を横に振る。「―――愛され方の種類が違いますから」
京助は感心したような短い声を上げ、「お前、デキた嫁見つけたな」とやっぱりからかうように耀に言った。
「最低だ・・・。俺のさっきの言葉が全部音を立てて崩れていく気がする・・・。――――泣き損だよ・・・」
「何が”泣き損だよ”、だ。――――お前の泣き虫は今に始まったことじゃねぇだろって」
「ちょっと京さん・・・。耀、一応泣かない努力はしてるよ。ちゃんと言いつけ守ってる・・・やっぱり耀は強い子だね。苦しげに歪めた表情なんか・・・さすが親子、スゲー似てる」
「――――ん・・?あぁ、昨夜の話か。――――いやいや、耀は泣き虫ひかるくんだから、ちょっと突っついてやればすぐめそめそ泣くぜ?なぁ、耀」
目と頬を真っ赤にした耀がからかう京助をぎろりと睨み、「・・バカにすんなっ。つーか、怜兄ちゃんも一応とか言うな」と喚いた。
真人が「耀くんは感受性が強いんだよね」と、フォローにならないフォローをする。
京助は「おいおい・・・なんだその庇い方。フォローになってねぇし」と呆れた様に言い、真人が「あ・・ごめん。褒めたつもりなんだよ、ホントに」と焦った様に言った。
「―――そうやって弱い部分を見せ合える関係って・・すごく大事なんだよね。今回のことでホントよくわかった、俺・・・」
耀の不貞腐れた表情を困ったように見つめながら、怜が静かに呟いた。
消えずに漂う張り詰めた空気感。けれど京助の無駄に明るい声がその雰囲気をガラリと変えた。
「―――――じゃあ、君たちにパパりんの秘密を教えてあげよう」
3人の顔をぐるりと見回し、京助がおどけたように言った。
まず最初に・・・、と隣に座る真人をちらと見て聞く。「―――こんな泣き虫が恋人で大丈夫?頼り甲斐ないんじゃない?」
真人はぶんぶんと首を横に振り、「そんなことないですよ、耀くんをすごく頼りにしてるんです、俺」と、焦った様に早口で言った。
それを聞き京助はニッと笑い耀を見て、「――――ふぅん・・こんな泣きべちょが頼りにねぇ・・・」と言い、今度は耀に聞く。「お前、もし万が一、真人君が今回の怜がしたのと同じことしたら・・・どうする?」―――――何かを試すように聞いた。
怜は一瞬肩をびくりと竦ませ、窺うように京助を見る。けれどその表情に怒りや嫌味の類は一切なくて、どこまでも純粋に息子の意見を聞きたいという父親の顔しかなかった。
少しの間、耀は口を開かずじっと真人を見ていた。そして、思い切るように言う。
「――――父さんと、同じ事・・・つっても、ガキだから限界はあると思うけど、でも、出来ることは何でもする。んで絶対どこまでも追っかけて探し出す。―――――父さんが怜兄ちゃんにどうしようもないくらい惚れてるのと同じで、俺も真人さんにどうしようもないほど惚れまくってるから。――――――だから、俺は怜兄ちゃんがいなくなってからの父さんの気持ちを思うと、胸が掻き毟られるって言うか・・・見てるこっちが辛くて叫び出したくなるって言うか・・・。――――はっきり言えば、何で父さんにこんな苦しい思いさせるんだよ、って気持ちは、すごくあった」
「・・・ごめん」―――消えそうな声で怜が言う。「何度謝ったって足りないけど、ごめんなさい」。
「や・・違う、責めてるんじゃなくて・・・えぇと・・・、ちょ、父さん、何笑ってんだよ!俺が言いたいのは・・・」
「―――――好きなひとを。大切に思ってる人を悲しませるような事は二度としないで・・・。そういうことだよね?・・・・・・怜さん。俺は・・耀くんや京助さんには申し訳ないけど・・・怜さんの気持ち、わかる気がします。自分ひとりが我慢すれば、大切なひとたちを守れるって考えちゃう気持ち。―――――でも、それは一方通行の独りよがりでしかなくて、だれも幸せにはれないとも思うんです。・・て、あぁ・・生意気なこと言ってごめんなさい」
「・・・あ〜ぁ、また怜の涙腺崩壊しちゃったよ。―――――けど、真人君の言う通り。わけもわからず取り残されちまった方は堪んねぇよ、ホント。自分の存在を全否定されたような気分になるもんな。俺ってそんな頼りなかったのか、ってな。しかしまぁ、こうやって怜はちゃんと俺んとこに戻って来たし、可愛い泣き虫の息子はパパりんを心配してくれてたし、その可愛い息子の美人な恋人も怜の気持ち理解してくれて・・・もう、言うことないよね。幸せだと思わねぇ?」
「―――――父さん、何ひとりで自己完結させてんだよ。つーか、秘密ってなに?話スゲー逸れてんじゃん」
ん・・?あぁ、秘密ね。と京助は少し考えるような素振りを見せて、思い切るように言った。
「――――――俺は、弱い。スゲー弱い男なんだよな、実は」
長い。そして会話だらけ。
・・・進まない(-_-;)
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休みが明けたら・・・(3)2012.05.10 Thursday
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3話で終われませんでした(焦っ
もうちょっと続きますm(__)m
3
「――――ぅ・・お、い・・・ッ?」
笑えるくらい情けない声で黒川はカタコトみたいな単語を発し、俺の額の辺りをぐいと掴んで離そうと必死になってた。けど俺はそんなのお構いなしで正直な反応を示すクロカワくんを喉奥深くに咥え込む。
視線をまっすぐ焦りまくる黒川に合わせ、控えめな音をたてながら・・・、これでもか!ってくらい嬲ってやった。
「――――――、・・・ま、まいりました」
軽く息を乱し、珍しく頬を上気させた黒川が、未だに信じられないという様な口調でそう言って、呆然と俺を見下ろす。
ふん。と鼻を鳴らし、俺は顰めた表情で黒川を睨み上げる。
「―――目には目を。・・・大体年甲斐もなくこんなとこでサカっちゃう諒一が悪いんだ」
ぶつぶつとそう言って大袈裟に溜息を吐き、俺はよっこらしょ、と立ち上がる。
「つーか、早くしまえよ。その・・・凶悪なモン」
「・・・、あぁ・・・あぁ、そうだな。悪ぃ」
ハッとした様に黒川がわたわたと着衣の乱れを直すのを視界の隅に止めながら、俺はゆっくりシートに腰掛け、どうにも説明しがたい複雑な感情(大半は羞恥だったけど・・)を隠すようにぼそりと呟く。
「――、・・・しとけ・・バカ」
「・・あ?何つった?」
「・・・ッ、―――――休みが明けるまで大人しくしとけ、って言ったの!」
と、俺がそう吐き出すように言った言葉を黒川は、それはもうこっちが絶句してしまうほど超ポジティブな捉え方をして、にんまりしながら答えたんだ。
「――――それはお前、アレか?休み明けたらいくらでも好きなようにしていい、そういう事だろ?」
「なななッ、なに言ってんだよ。そういう意味じゃねぇし!」
「ふぅん・・・。じゃ、どういう意味だ?」
「どういう意味って・・・そのままの意味だよ。こんな公共の場でサカられる俺の身にもなれよ。恥ずかしいんだって・・・。――――――だから・・・!休み明けるまでは俺に触らないで!」
「―――ハッ。バカか、慶太。それは無理な相談だ。目の前にお前がいるのに手ぇ出せないとかありえねぇだろ。――――――けどまぁ要するに。連休中の仕事が終わりさえすれば、堂々とお前を犯れるってことだろう?」
「違ぇし!何そのオレサマ的思考。つーか、アタマの中、それしかないわけ?」
「それもある。けど、もちろんそれだけじゃねぇよ。俺は四六時中と言っていい程お前のことを考えてる。唯一考えない様にしてるのは試合の時だけだ。――――どうだ?嬉しいだろう?」
「・・・」
こいつは・・・。ホントもう、悔しいくらいに性質が悪い。
んで俺は・・・。ホントもう、とんでもない腑抜けっ子だ。
だって・・・。
“嬉しいじゃねぇか、コノヤロー。”―――――なんて思っちゃったもん。
黒川は無言になった俺を面白そうに覗き込み、「―――今日の夜、覚悟しとけ〜」とニッと笑った。
俺は恥ずかしいのと悔しいのでむぅと口を尖らせて、「・・・変態」と呟いたんだけど、それを聞いても黒川は全然堪えてる風ではなく、逆にいっそう笑みを深くして言ったんだ。
「それは俺にとって褒め言葉だ。お望みとあらばもっとスゲーこともできるけど・・・?つーかよ、慶太。お前がさっき俺にしてくれちゃったこと思い返してみれば、・・・お前こそじゅうぶん変態なんじゃねぇか?」
「ッ・・・!う、うっさい。知らないもうっ」
俺はもうそれ以上黒川のしたり顔を(恥ずかしすぎて)直視できなくて、ブランケットを頭からすっぽりかぶって、「寝るっ!」とキレ気味に言った。
黒川は「はいはい」と笑いをかみ殺しながら(だろうたぶん)言って、それからはおれに構う事はしなかった。
不貞腐れた(羞恥に耐えられなかった)まま眠ってしまった俺が目を覚ましたのは、車内アナウンスの声が聞こえたから。何だか妙に寝心地が良くて、思わずもっといいポジショニングを探しちゃおうか・・・と身動いだら、クククッ、頭上から笑い声が降ってきた。
「――――積極的だな、おい。まぁ俺はいつでも大歓迎ですけど?」
「え・・・?」
微睡みの心地好さから急激に意識が浮上して、パッと瞼を上げると目の前には・・・ベルトのバックル?
何でだ、と起き上がろうとして俺はハッとする。起き上がるってどういうことだ??
俺は確かブランケット被ってシートにちゃんと座ってたはずなのに・・・。
「もうすぐ着くぞ。抱っこして連れて行ってやろうか?」
俺は慌てて身を起こし―――――俺はシート上で横になり、黒川の膝枕で寝ていた―――――焦った様に辺りを見回す。
「ご、ごめんっ。こんな人目のあるとこでだらしないとこ晒しちゃって・・・」
冷や汗が流れるのを感じながら俺は焦りまくってそう言って、座り直したシートの上でシュンと俯く。
「いや。誰もこっちまで来てねぇよ。それに、お前の可愛い寝顔は俺だけのモンだから何としても死守せにゃならん。安心しろ、誰にも見られてねぇ」
「そ・・そか。良かった・・・」
「―――――ケータ」
「ん?わわっ、ちょ、あぶな―――――――んぅ・・っ!」
ホッと息を吐き、脱いでいた靴を履こうと屈んだ瞬間黒川に名を呼ばれた。
反射的に首を回して黒川を仰ぎ見た俺の後頭部を大きな手でがっしり掴まれ、逸らす間もなく不敵な笑みを浮かべた顔が近付き・・・、濃厚なのをイッパツ喰らわされた。
「――――――ごっつぉさん。暴れるかと思ったけど案外大人しかったな」
からかうように黒川は言い、俺の口元に光るどちらのものかわからない唾液の痕をごつごつした指先で拭う。
「―――――うっせ・・・」
あさっての方向に視線を泳がせ、頬に血が集まるのを感じながら俺はそんな可愛げのない言葉を零す。
黒川はおもしろそうにくつくつと笑うだけでそれ以上何も言わなかったけど、唇を尖らせたまま視線を逸らし続ける俺の手を、次の駅に停まるまでの5分間、きゅっと握って離さなかった。
それを嬉しいと思う俺は・・・やっぱりどうしようもなくこいつの事が大好きなんだと改めて思い知った。
―――――――――あ。もしかして・・・変態って伝染るのかな・・・?
アホなカプ・・・(-_-;)
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パパの執念 202012.05.09 Wednesday
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20
一頻り泣いて、少しスッキリしたような表情を浮かべた怜が、言おうか言うまいか躊躇うように何度か口を開け閉めした後、小さな声で呟いたのは、“本当はずっと、そう呼びたかった・・・”――――という、綾子たちにとっても嬉しい言葉だった。
向こうであったこと(伯父夫婦の件や墓の件など)を詳しく伝えるため居間に移動して暫く話し込んでいたのだが、極限まで張り詰めていた気持ちが緩んだのだろう。大人しく会話を聞いていると思っていた怜が、ソファに凭れくったりと寝息を立てていることに京助は気付く。
「――――こんな調子じゃ話はできねぇな。くたびれただろうし・・・。とりあえず今日は一旦帰るか。次の休み・・・、つっても、暫くは無休で働かなきゃなんねぇだろうからな・・・。仕事帰りにでもまた寄るわ」
京助はそう言って怜を抱え上げようとして、一度手を止めた。
改まったように両親に向き直り、普段はなかなか見せない真剣な表情を浮かべて告げる。
「心配かけてごめん。それと・・・、――――怜を叱ってくれて、ありがとう。あんな叱り方、俺にはできねぇからさ。――――母親ってスゲーな」
「バカねぇ、何年母親やってると思ってるの。それに・・・怜の事は確かに心配だったし心も痛かったけど・・・、――――アンタの若い頃にした心配に比べたら・・この子のやったことなんて可愛いもんよ」
そう言って綾子は笑い、京助はそれに顔を顰めただけで反論することはしなかった。思い当たる節がありすぎるくらいあったから。
下手に刺激しないでおこう(蒸し返されると長くなるし・・)と心の中でヒヤヒヤしながら、改めて怜の体を抱き上げる。
少し身動ぎ怜が京助の胸に擦り寄るような仕草を見せると、綾子はからかうように「ごちそうさま」と笑って、息子の背中をポンッと押した。
「―――――おかえりっ・・・、って、寝てんの?マジ?」
車の音を聞きつけて、ホールまで降りて出迎えた耀が、京助に抱えられ眠る怜の姿を見て、呆れた様に目を見開いた。
耀の隣に立つ真人も、「怜さんのこんな無防備なとこ、初めて見た・・」と呟き、どことなくニヤついた表情で京助を見上げる。
「おぅ、ただいま。話してる途中に寝ちゃったんだよ、こいつ。―――なぁ、可愛い顔して寝てるだろ?」
ニッと笑って京助はそう言って、寝室へと向かった。
怜を寝かせてすぐにリビングへ戻った京助に耀が駆け寄り「どっか怪我とかなかったの」とか「どこで見つけたの」とか「理由は何だったの」とか・・矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
京助はそれに苦笑しながら「まぁ落ち着けよ」と髪をくしゃっと撫で、視線で座るように促した。
「―――――悪かったな、ずっとほったらかしにして。メシ、何か食う物あるか?」
ふたりの顔を交互に見ながらそう聞いた京助に、耀は「メシなんかどうだっていい」と言い、真人は「焼きそばくらいならすぐできます」と答える。
京助はうーん・・と少し考えてから、「出前とろうか。好きなもん頼め」と言った。
「ちょっと、父さんっ!メシはどうでもいいんだってば。怜兄ちゃんに何があったかちゃんと説明してよ」
「あー・・もううるせぇなぁ。―――――怜が起きたら自分で聞けよ。どうせ俺が今言ったって、後で怜が起きてきたらまた質問攻めにするんだろう?だったら俺の説明なんて無駄になるじゃねぇか。――――――あ、真人君、出前のメニュー取って」
「あ、ハイ・・」
「ちょ、真人さんも!気にならないの?出前どころじゃないでしょ?」
「え・・う、うん。ごめん・・・」
「おい、真人君に当たるなよ。・・・ったく小せぇオトコだな、耀。―――――――はい、じゃあ簡潔に説明しますよ。耳穴かっぽじってしっかり聞いてくださいね?」
「―――小さいって・・・。―――――ご、ごめんね、真人さん・・・。――――――聞きます・・・」
「・・・大人の事情です。以上。――――――さ、メシだ、メシ」
「――――なッ・・・!何だよ、それ!説明になってねぇじゃん!」
「――――お、ありがと。真人君は何食いたい?俺はね〜・・・ホル定にしよう。怜には・・・病み上がりだから軽いやつ・・・」
「病み上がり?――――やっぱりどこか悪いんですか?」
「と、父さん、病み上がりって何だよ!」
「―――――真人君の聞き方になら答えたくなるけど、耀のはやだ」
「やだ・・?やだって何だ―――――」
「――――耀くん、ちょっと黙って!」
「ッ・・・!―――――――ハイ・・・」
「おー、すごいねぇ、真人君。――――――――別に病気じゃねぇよ。栄養不足と精神的疲労で2〜3日熱上げてたらしい。今は元気。ちゃんと確認したからな。隅々まできっちり」
「・・・あ・・そうですか。――――――あ、なら、鍋焼きうどんとかいいんじゃないですか?」
「あー、そうだね。それにしよう。耀は・・・お子様だからランチだろ?ランチ」
「定食屋にお子様ランチなんてねぇし・・・。―――――――唐揚げ定食・・メガ盛りで」
メガ盛り。――――と真人が笑いながら電話に手を伸ばす。京助は不貞腐れた耀に「おい」と声をかけ、わざとらしい溜め息を吐いて言った。
「―――――怜は、お前が聞かなくてもちゃんと自分から話すつもりでいるから、そんなに焦るな。心配してくれるのは嬉しいけどよ、話すにも聞くにも、タイミングってあるんだよ、耀。そこんとこ、理解してくれると助かるんだけどな」
言い聞かせるようにそう言われ耀は、「――そんな風に言われたらもう聞けないじゃん・・」と頬を膨らませ、「真人さん、チャーシュー麺追加で」と、不貞腐れた声のまま言った。
出前が届いたのと同じくらいに怜がリビングに顔を出した。
「――――――美味しそうな匂いがする・・・」
まだ少し眠そうな掠れた声でぽつりと言って部屋の中に視線を巡らせ、何か言いたそうにソワソワしている耀の隣にポスッと座った。
「――――耀・・・。心配かけてごめん。ホントに、ごめんな」
膝の上でぐっと強く握られた耀の手を、怜は両手でふわりと包み、そこに視線を落としたまま静かに続ける。
「――――俺さ、何もかんも全部投げ出して、京さんの金まで盗ってここから逃げ出したんだ。説明もしないで、行き場所も言わないで、自分勝手な理由だけで自己完結させて、・・・みんなを裏切った。心配させて苦しめて・・・ホント、俺って最低最悪」
京助の言った通り、耀が尋ねるよりも先に怜がその理由を語り出した。何故ここを出なければならなかったのか、ここを出てからどこに向かったのか、向かった先でどんなことがあって、どうやって日々を過ごしていたのか。怜はひとつの隠し事もすることなく、ゆっくりと自分自身にも言い聞かせるように耀に伝えた。そしてその間、包んだ耀の手を離す事も視線を移動させることもしなかった。
「―――――もし・・・父さんが怜兄ちゃんを見つけられなかったら。もし、その医者の人がどこまでも怜兄ちゃんを隠し続けてたら・・・怜兄ちゃんはここには戻ってこなかった、ってこと?」
泣くのを堪えているのだろう。喉の奥から絞り出したような低い声で、耀は聞く。
怜は一瞬肩を震わせたが、込み上げる後悔と流しつくしたはずの涙を深く呼吸を繰り返すことで抑え込む。そして、きっぱりと顔を上げ、じっと自分を見つめていた耀と視線を合わせてはっきりと頷いた。「―――――戻って来るつもりはなかった。戻れるはずがないんだ」
「――――――か・・・勝手なこと、言うな・・・ッ!」
もう堪えられないという様な耀の絶叫が、重い静けさのある室内にこれ以上ない悲痛さを伴い響く。
うーん・・・(-_-;)
やっぱりパパシリーズはBL<ホームドラマ、って感じ(苦笑
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休みが明けたら・・・(2)2012.05.08 Tuesday
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2
――――コンコン。
『―――お客様・・・、ご気分が優れませんか?』
(俺にとっては)救世主のような、乗務員の声が遠慮がちにかけられた。
さすがに籠る時間が長いと気づいたんだろう。(ありがとう、ありがとう(涙 )
黒川はチッと舌打ちをして、無言のまま俺の衣服を直し、抱えるようにして鍵を上げた。
「――――お客様・・・?体調がお悪いのですか?もしお医者様が必要であれば―――――」
「・・・えぇ、連れが。医者は必要ありませんから」
不機嫌を全面に出し、黒川が車掌(だろう、たぶん)――に短く答えた。
俺はもう恥ずかしくて顔を上げることができないし、何より高められるだけ上りつめてしまった快楽の熱は行き場をなくして体内で燻ったまま。はっきり言ってこんな羞恥プレーってあったもんじゃない。
「次の停車駅まで1時間ほどございますので、それまでこの車両にお客様はいらっしゃいません。気休めにしかならないでしょうが、どうか周りは気にせずシートを倒してゆっくりお休みください」
多分、車掌は黒川だって気付いてる。特別扱いこそしないものの、どことなく何割増しかで丁寧さがプラスされているように感じた。
けど黒川は特に気にする様子もなく、小さく頷いただけで俺を抱えたまま歩いて元の座席に座らせると、自分はまた立ち上がってどこかに行ってしまった。
何なんだよもう・・・。俺は未だ収まらない体の燻りを、深呼吸を繰り返すことで必死に抑え、いっそもう寝ちゃおうかな・・なんてリクライニングを限界まで倒したところで頭上に黒川の不気味な笑顔をみつけてしまった。
「―――――そんなにシート倒したら、色んな意味で丸見えになるぜ」
そう言って必要でもないブランケットをふわりと俺の体にかけて、素知らぬ顔でその中に手を滑り込ませた。
「ちょ・・っ!―――――な、なにする気?」
「何ってお前・・・。ここ、こんな状態になったまま放っておけるわけがないだろう?ラクにしてやる」
「けけけけけ結構ですッ!放っておけばそのうち収まるし・・・ッて、ちょっと、やめてって!」
「うるせぇ、大人しく触らせろ」
何という暴君ぶり。――――こんないつ誰がやって来るかもわからない公共の空間で、(ブランケットで隠されているとはいえ)半分ズボンを下ろされて、起き上がった下半身を露出している俺は、どっからどう見ても変態じゃないか!ってか、それを涼しい顔で弄り回すこの男は、どんだけ鬼畜ヤローですか?酷い。酷過ぎる。
結局俺は黒川のゴツゴツの手によってあっという間に追い詰められて、半べそ状態のまま熱を放出した。
黒川は俺以上にスッキリした顔で満足そうに笑みを浮かべ、手や指に付いた俺の・・・恥ずかしい液体を見せつけるように舐めていく。
「―――――とりあえず、今はこれで勘弁してやる」
何様ですか?ってか、”今は”・・てなんだ!
キィーってなりながら黒川を睨んでみたけど、ヤツは全く気にする様子も見せず、ジャケットのポケットから取り出したハンカチで雑に手を拭くと、そのままシートを倒して目を閉じてしまった。
く・・・悔しい。この超オレサマ男をギャフンと言わせてやりたい・・・。
何か良い仕返し方法はないか・・・。―――――と、ジロジロ上から下まで無遠慮に這わせた視線を一箇所で止めて、俺は思わずニヤリと頬が緩んだ。
い〜こと思〜いついちゃった♪
できるかぎりいつも通り、極めて普通に・・・俺は黒川の肩をゆさゆさと揺らし声をかける。
「りょーいち。そっち側だと首痛くするから、俺の方に座りなよ。朝早かったからまだ眠いでしょ?」
俺はとっても心配してます。みたいな口調で言ってみたら、薄らと瞼を上げた黒川が俺をギュッと抱きしめて、「・・・そーする」と答え、自分の膝の上で俺を抱えたまま寝ようとしたから、俺は慌ててその手から逃れ、黒川の温もりがホカホカ残るシートにすっぽり座った。
ちら、と横目に黒川を見る。
・・・よし、また寝る態勢に入ってる。しめしめしめしめ・・・
俺はニヤニヤしながら(傍目に見ると相当ヤバい顔してたと思う)、大きく開いた黒川の脚の間に蹲り、(俺史上)最高の手早さでベルトとスラックスのホックを外し、グイッと下着ごと手前に引っ張り空いたスペースから片手を突っ込んだ。
「――――ッ!な・・・なにしてんだおまえ」
黒川の驚きに塗れて裏返った声を頭上に聞きながら、俺はぐわしっ!と効果音でも付きそうな勢いで、黒川のクロカワを掴み上げ、慌てて腰を引きかけたのを逃がすものかと強引に顔を近付けてそして・・・。
――――――ぱくん。
食ってやった(笑)。
おいおい、ケータ(-_-;)
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パパの執念192012.05.07 Monday
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19
「――――――ごッ・・、ごめんなさい・・・っ」
先に連絡していた通り、怜を見つけた翌日の昼過ぎ、京助は怜を伴い実家に立ち寄った。
連絡を受けていた翔太をはじめ、喜一郎夫妻、尚、そして学校を早退して来た耀と真人も怜の帰りを今か今かと待っていた。
京助に肩を抱かれ玄関の引き戸を開けた瞬間、俯けた視線の先に大好きな人たちの居並ぶ足先を認め、顔を上げることなく怜は戸口で崩れるように膝をつき、ひれ伏す勢いで地面に額を擦りつける。
すぽんと自分の手の中から突如抜け落ちた怜の動きに驚いて、京助は慌ててその体を抱き起こそうと手を伸ばしかけたが、思い直すように手を引いて、自分も怜と同じくその場に膝をついた。
「――――ウチの怜が、エライ迷惑かけてすみませんでしたッ」
その声に怜が弾かれたように顔を上げた。
めちょめちょに泣き濡れた双眸を京助に向け、消えそうなほど小さな声で、「―――なんで・・・?」と呟く。
京助はチラと怜に視線を向けて、ニッと笑った。
「なんでって・・。そりゃお前が俺の家族だからだろ。悪ぃことした、罪を犯した・・って思ってんなら俺もその片棒担いでやる。お前一人に背負わせねぇよ」
と、京助が言って怜が口を開きかけたとき、バタバタと裸足のまま耀が玄関の三和土に下りてきて、二人に倣うように手をついた。
「――――怜兄ちゃんが悪いなら、俺も謝る。ごめんなさい」
耀の後を追って真人も隣に膝をつき、やはり同じように頭を下げて「ごめんなさい・・」と言った。
茫然と怜はその光景を見て言葉を失くし、次いで、もう堪え切れないと咽るように嗚咽を漏らした。
京助も耀も真人までも・・・。責められたって詰られたって文句のひとつも言えないようなことを仕出かした自分なんかのために、一緒になって謝罪を口にし一生抱え続けなければならない罪を共に背負うと、そう言ってくれている・・・。
地べたに突っ伏して泣きじゃくり、泣きながらもいつまでもごめんなさいと、ありがとうを言い続ける怜をその場にいた翔太たちは安堵と呆れの篭る優しい眼差しで見つめた。
ただひとりを除いては・・・。
「―――――顔を上げなさい、怜」
平坦で、全く感情の篭らない、冷たく突き放すような綾子の声が、玄関ホールに鋭く響く。
怜は手の甲でぐいと涙を雑に拭き、どんな言葉でも扱いでも、例え罵られたとしたって、全てしっかり胸に刻んで受け止めようという強い意思で、感情の読みきれない綾子を見上げた。
―――――パンッ
大きく振り上げられた右手がそれと同じ勢いで振り下ろされ、シンと静まり返った空間に響き渡る。―――――怜の左頬にくっきりとした手跡が浮かび、勢いのまま首が揺れた。
―――――バシッ
乾いた音が消えきらないうちに、再度振り下ろされた手・・今度は掌ではなく甲だった―――が、流れのまま背けられた怜の右頬に、先程よりも重さのある音を立てて戻って来て、左頬同様じわじわと手跡が浮かび上がった。
怜は両頬を真っ赤に腫らせて、それでも逸らすことなく綾子を見上げ続けている。
瞳には必死に堪えているであろう涙がぷっくりと浮かんでいたが、まるでそれを零してしまったら罪であるかのようなきっぱりとした態度で顔を上げ、再び打たれるのをじっと待った。
「――――――どれだけ心配したと思ってるの・・ッ!」
どうしようもないほど苦しげに詰まらせた声で、咽ぶように綾子は叫んだ。
来ると思っていた衝撃は頬を打つ痛みなどではなく、強張った体を包み込む温かな体温だった。
怜は自分に今与えられているこの状況を、うまく理解することができなかった。
綾子に見放されたと、もう二度と家族として迎えてもらえないのだと、怜は絶望感すら持っていたのに、自分を抱きしめる姿から、そんな雰囲気は微塵も見えない。
綾子から見える感情は、どこをどう探しても、怜を心配し気が触れる寸前だったというような、切羽詰まった焦燥感と、ようやく自分の手の届く場所に戻って来たという安心感――――端的に言ってしまえば、見間違いようのない大きな愛情しか、そこにはなかった。
「―――――あんたは私たちの大事な息子なの。いくら成人した大人だと言い張ったって、私にしてみればいつまで経っても可愛い子どもなのよ、あなたは。・・・お願いだから、こんな辛い思いは二度とさせないで。もし怜の身に何かあったら・・・そう考えて、大袈裟じゃなく食事も摂れなかったしまともに眠ることさえできなかったのよ?――――――いい、怜。これからは、私やお父さんにお迎えが来るまで、これでもかってくらい親孝行してちょうだい。それが、私たちに対するけじめのつけ方よ。わかったわね?」
「―――――ごめ・・・ごめんなさい・・・ッ。俺・・・ホントに・・・綾子さん・・・ごめんなさい」
「綾子さんじゃない」
「・・・?」
「―――――”お母さん”よ。あと会長もダメ。”お父さん”って呼びなさい」
「・・・え・・・?」
「近所のおばさんを呼ぶのとは違うんだから、そろそろ、私たちの事を”親”として扱ってくれない?ずっと気になってたんだから、その他人行儀な呼ばれ方」
「あや・・・、―――――――お・・かぁ・・さん・・・」
そう口にした途端、声を上げてしゃくり上げるように泣き出した怜を、綾子は小さな子供をあやす様に背中をトントンと撫で擦って、呼吸が落ち着くまで離れようとはしなかった。
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